徒然日記

約7年間の出来ごとです。

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「ばあばっ‼ねえ、ばあばってば‼空き瓶‼なんか変な人来た‼ヨーグルト食べた‼ 」インターホン越しに聞こえてきた幼い声。 全体的に意味不明なのは良しとして、カメラに映った俺の姿はそんなに変なのかとチクっと心が傷付つく。 しばらくして、先日サンプルを…

19

「お疲れさまです。」 携帯を手にしたが、まだふらつきは治まらない。 「どう?」 どうやらいつもの進捗状況の確認の連絡のようだ。「契約は獲れていません。具合が悪く、近くの公園で休んでいます。」「そうか。それじゃまた連絡するから。」たったそれだけ…

18

異変に気付いたのは自分自身ではなく、お客さんの方だった。「あんた、顔色悪いよ?これあげるから飲みな。」そう言われて500ミリリットルのスポーツドリンクを手渡された。「あんた、若いのに頑張ってるから契約してもいいんだけど、私、乳製品ダメなのよ。…

17

「ママー。あの人旅行に行ってきたのかなー?」 「指差しちゃだめ‼さっ。早くいきましょ。」マスクをかけた親子連れに不審者扱いをされつつ ガラガラゴロゴロ耳障りな不快音を出しながら歩くこと30分。キャリーカートを引っ張りながら出かける人なんて怪しい…

16

「キャンプにでも行くんですか?」 そこに置かれたのはアウトドア用品売り場で見かけるキャリーカートだった。しかし、いくら頭を捻ってみてもキャリーカートと仕事は到底結び付かない。「そんな訳ないだろ。お前、今日から車使うの禁止だから。」どういうこ…

15

「バック、何回切り返しすれば気が済むの?」 嵐のような嫌味に耐え、どうにか会社に到着した。既に精神は限界だった。いくら運転下手とはいえ言い過ぎだろう。 「俺にも家族がいるし、まだ死ねないから。」いっそのことわざと事故ってやろうかと何度思った…

14

「ちゃんとバックミラー見て。なに。殺す気?」 後方から来るバイクに気付かずに、左折しようとしてしまい、慌ててブレーキをかけた。「これで免許証持ってるとか、嘘でしょ?俺が担当の試験監督だったらとっくに不合格だぞ。」いや、元々運転は得意ではない…

13

「おいっ。まだ赤信号だぞっ。」 近所のお爺さんが手にした黄色い旗を自分に向けて怒鳴り散らした。歩道には高校生の男子がエナメル製の野球バックを背負いながら歩いている。 そのうち何人かは驚きながら振り返るがそんな視線は全く気にせず駆け足で走った…

12

「これ、昨日と一昨日の契約書です。」 月曜日、朝礼が終わり準備をしている先輩に鞄から出し渡した。 土曜日2件、日曜日1件、合計3枚の契約書をヒラヒラさせながら、 「大丈夫?すぐに辞めたりしない? 」 と不躾に聞いてきたが、恐らく問題はない。 3件全…

11

「これ持ってけ。」 男性はビニール袋を取り出し、自分に向かって放り投げた。放物線を描きながら胸の辺りにストライク。中を見るとそこには、チョコレートやあめ玉、他には駄菓子が袋一杯に入っていた。「あ…ありがとうございます。」 困惑しながらも、一応…

10

「俺が飲んだのはどれだ?」 そう言って奥様からパンフレットを乱暴に奪い、作業着に身を包んだ初老の男性が自分に尋ねてきた。「そのページの1番左上の小さい瓶に入っている牛乳です。」 そう伝えると男性はその商品の所を暫くの間じぃーと見て、 「よくわ…

9

「ボールそっち行ったぞ‼」 小学生くらいの子供2人がかっ飛ばしたボールが足元に転がる。ゴムボールかと思ったら以外にも固く軟式用のボールだった。拾い上げ軽く振りかぶって駆けつけた少年の胸元へ投げ返す。 「すいませーん。ありがとうございます‼」 ま…

8

「一体これは?」 我ながら間の抜けた声を出してしまった。 昨日の疲労が抜けないまま出社し、いつものように出発の準備をしようと営業車の扉を開けた。そこには見慣れないクーラーボックスが3箱置いてあった。開けてみるとそこには大量のサンプルがぎゅうぎ…

7

「悪い悪い。多分空き瓶回収日に混ぜったかもしれないな。弁償するよ。」30代程の男性は申し訳なさそうに財布を取り出した。「いえ、大丈夫です。それよりこんな遅くにお伺いしてしまいすいません。何度か足を運んだんですけどタイミングが合わなくて。」社…

5

「だからさ。もう一度言って。」 明らかに怒気を含んだ言葉がスピーカーから溢れた。 「すいません。まだ今日は契約ありません。」 疲労が溜まり、弱々しい声を振り絞り、情けない結果を伝えた。 「ありえない。それで、これからどうすんの?」時刻は既に20…

4

「どういうつもり?」 出勤早々、先輩に会議室へ連れてこられ、1枚の資料を渡された。そこには全営業員による先月の目標と結果がプリントされていた。各々掲げた(会社から課されたノルマ)目標と結果がはっきりとグラフにされており、その中で自分の名前を見…

6

「サンプル貰って考えたんだけど…。やっぱりスーパーで買った方が安いし、ごめんなさいね。」そう言って、玄関の扉を閉められた。回収した空き瓶に目を落とす。水滴一つついていない。キャップもしっかりと閉まっている。多くの人は洗わずそのままの状態で返…

3

「慣れれば契約なんて簡単に獲れるよ。」先輩はそう言って手元にある契約書の束を数えていた。見たところ5枚。つまり、今日は5件の契約を獲ったことになる。1日で5件獲るのはなかなか無いらしく、会社に戻る途中、普段なら絶対に寄らない某コーヒーチェーン…

2

「へー。こんなのあるんすか。」もの珍しげに渡したパンフレットを見ながら呟き、親に渡しときますと言って中学生くらいの坊主頭の少年は玄関を閉めた。知らなくても無理はない。今時牛乳屋と言ってピンとくる人は一体どれくらいいるんだろう?昔は新聞と同…

1

「いらねぇって言ってんだろうよ‼」インターホン越しから聞こえてきた罵声に驚きながら慌てて謝り、玄関を出た。手にした地図の中の「鈴木」という四角で囲まれた箇所にペンで×印をつける。他にも「佐藤」「田中」×印で埋め尽くされた名字が並ぶ。地図を畳み…