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「キャンプにでも行くんですか?」
そこに置かれたのはアウトドア用品売り場で見かけるキャリーカートだった。しかし、いくら頭を捻ってみてもキャリーカートと仕事は到底結び付かない。
「そんな訳ないだろ。お前、今日から車使うの禁止だから。」
どういうことか全く理解できない。
「誤解するなよ。勿論、現場までは車で移動する。そこからだ。今までは一軒ずつ車をお客さんの家やマンションに横付けして、訪問し、終わったらまた車に乗って移動してきただろ?」
確かに。あまり長い間横付けすると、苦情が出るので気を付けなければならないが。
「そのやり方を止める。そのキャリーカートにバックを乗せて歩いて訪問して。チラシは手で持てるよな。現場までは俺が送っていくから。」
いきなりの指示に困惑していると、続けて決定的な一言を言い放った。
「お前の運転下手過ぎて仕事にならない。車使うより歩いた方が早いだろ?若いんだし体力あるでしょ? 」
何も言い返せなかった。
言われるがまま、荷物を先輩の車に乗せた。そしてそのまま現場まで送ってもらう。
30分後、現場近くのコンビニに到着するとバックを乗せたキャリーカートと大量のチラシと共に降ろされる。
「夕方に一度見に来るから。その間に何かあったら連絡して。」
そう言って去っていった。
取り残された子供のように佇んでいた。
まあ、やることは変わらない。一軒ずつ訪問するだけだと、自分自身に言い聞かせ、ガラガラとキャリーカートを引っ張り歩く。
これから地獄のような時間が待ち受けてることも知らずに。