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異変に気付いたのは自分自身ではなく、お客さんの方だった。
「あんた、顔色悪いよ?これあげるから飲みな。」
そう言われて500ミリリットルのスポーツドリンクを手渡された。
「あんた、若いのに頑張ってるから契約してもいいんだけど、私、乳製品ダメなのよ。主人は酒しか飲まないし。だからこれで勘弁してよ。友達に聞いてみて、欲しい人いたらあんたに連絡するよ。」
そう言われたので、携帯の番号をメモして渡した。
期待は限りなく0%に近いだろうが。
玄関を出てから、歩き出すと急に目の前がぐらついた。
地震かと思いきや、揺れているのは地面じゃない。
堪らず地面にしゃがみこむ。手にしたスポーツドリンクをゆっくり飲みながら、息を整える。
携帯の画面には14時10分と表示されていた。
朝からずっと歩きっぱなし。
一度コンビニに寄っただけで、口にした物は菓子パン1つ。まだ6月とはいえ、気温は27度を越えるとラジオの天気予報で言っていた。
「まずい…」
これはあれだ。熱中症というやつだ。
車に戻って休みたいが、こんな日に限って車がない。
仕方がないので、近くの公演にあった滑り台の下に潜り込み、体を休める。
契約は獲れない。体もボロボロ。気持ちも折れかけていたそのとき、急に着信音が鳴り響いた。