徒然日記

約7年間の出来ごとです。

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「ボールそっち行ったぞ‼」
小学生くらいの子供2人がかっ飛ばしたボールが足元に転がる。ゴムボールかと思ったら以外にも固く軟式用のボールだった。拾い上げ軽く振りかぶって駆けつけた少年の胸元へ投げ返す。
「すいませーん。ありがとうございます‼」
まだコントロールは落ちてないことよりも挨拶がしっかりできていることの方に驚いてしまった。自分もそうだったが、やはりスポーツをしていると指導も厳しいのかと思っていた矢先、
「ごめんなさいね。遅くなって。はい。これでしょ。」
インターホンを押してから約10分後、ようやく出てきた50代くらいの女性から空き瓶を手渡された。
「パンフレット読んだよ。けっこう高いのね。」
どうやら、配ったパンフレットに記載された値段に納得いってないようだ。
「宅配専用商品でして、スーパーに売られている商品よりも値が張りますが、その分効果効能は高いとテレビや雑誌を初めとするメディアでも取り上げられている商品になってます。」

「そうだよねぇ。ちょっと待って。」
そう言って再び家の中に入り、すぐに出てきた。
「あなた何?日曜日にもこうやって勧誘してるわけ?これ飲みなよ。」
そう質問され、手渡されたのは大手メーカーの某スポーツ飲料水だった。
「ありがとうございます。毎週ではないんですけど。」

「ぶっちゃけしんどいでしょ?いや私もね。あなたくらいのときに新聞の勧誘やっててさ。もう1日何百回断られたことか。」

「そうだったんですか。」
どうやら、自分の若いときを思い出してるらしい。
扱うものは違えど、やってることは大体同じなんだろう。

「こんなこと聞くのも失礼かもしれないけどさ。今日契約取れた?」
「いえ、取れてません。」
「そうだよねぇ。それでも挫けずにやるなんて偉いよ。」
「ありがとうございます。」

この手の励ましにももう慣れてしまった。一見良い雰囲気になるけれど、結局契約にならないことが多い。断るなら初めから断ってほしいと正直思ってしまう。

「でも、ウチも生活厳しくて。今回はごめんね。」

やっぱりそうか。予想通り。諦めて帰ろうとしたとき、
「おい‼」
地鳴りのような声が家中に鳴り響いた。