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「サンプル貰って考えたんだけど…。やっぱりスーパーで買った方が安いし、ごめんなさいね。」
そう言って、玄関の扉を閉められた。
回収した空き瓶に目を落とす。
水滴一つついていない。キャップもしっかりと閉まっている。
多くの人は洗わずそのままの状態で返してくるが、この人は違う。
こういう綺麗な瓶を見ると、断られたのに不思議と気持ちが落ち着いてくる。
しかし、結果は契約不成立。現実は変わらない。
「参ったね……」
確かにお客さんの言い分は納得の意見だ。
宅配牛乳の商品はスーパー等の大型量販店に比べると値段が高めに設定されている。
極端な話ではあるが、スーパーで売っている特売の1リットル牛乳の値段と宅配で買う小さな瓶180ミリリットルの牛乳の値段がほぼ同じである。
これは決して詐欺ではなく、カルシウムやその他栄養成分が他の牛乳に比べると何倍も入っているので、その値段に見合った効果効能は期待できるからである。(ただし、個人差はある。)
ただ、それを一般家庭の主婦の方や、年金暮らしの年配の皆さんが契約して飲むとなると、決してハードルは低くはない。
それをいかにして「飲みたい‼」と思ってもらうかどうかは、営業の腕の見せ所なんだろう。
しかし、こちらが説得すればするほど、お客さんは拒否する。
「押し売り」されていると感じた瞬間、財布の紐を閉じてしまうのだ。
そのバランス感覚は一朝一夕で身に付くものではない。空気を読み、お客さんの心を掴むなんて出来るんだろうかと、途方に暮れていたとき、会社から支給された携帯が振動する。
見るとそこには見たくもないが見慣れた名前。嫌な予感しかない。
意を決して通話ボタンを押した。