徒然日記

約7年間の出来ごとです。

7

「悪い悪い。多分空き瓶回収日に混ぜったかもしれないな。弁償するよ。」

30代程の男性は申し訳なさそうに財布を取り出した。

「いえ、大丈夫です。それよりこんな遅くにお伺いしてしまいすいません。何度か足を運んだんですけどタイミングが合わなくて。」

社内規定ではあくまでサンプルを配るだけで対価を貰ってはいけないことになっている。元々一度断られたが、そう言わずに受け取って下さいと半ば強引に渡した記憶があるから、余計に貰えない。
むしろ探す手間と労力をかけてしまってお金を払いたいくらいだ。

「実は先週から出張に行って昨日帰って来たばかりだったんだよ。すっかり忘れてたよ。」

「そうだったんですね。ところで、お配りしたパンフレットはご覧になって頂きましたか?」

「ああ。読んだよ。あれって配達してくれるんだよね?」

いつもなら「読んでない」だの「捨てた」だのバッサリ断られるような返事が多いが、この人はちょっと違うようだ。若干の期待を表情に出さないようあくまで冷静さを保ちながら答える。

「はい。週に2回、早朝にお届けさせて頂きます。」
「そうか。今日はもう遅いからちょっと考えさせて。また来てくれたときにまで考えておくから。明日からまた出張だから来週また来てくれないかな?」

「わかりました。ありがとうごさいます。失礼します。」

そう言って頭を下げ、玄関の扉を閉める。


やっぱり。

今のは断られたのか、はたまたアポなのか半信半疑だが、今契約出来なかったのは正直ショックだ。

もう少し強気でクロージングかけていたら契約できたのかもしれないが、既に時刻は21時を回っている。常識的にも迷惑だろうと敢えて引き下がった判断は間違いではないと思いたいがやはり悔しい。

結局今日の契約は0件。多分明日また先輩からの嫌味を聞くだろうと思うと胃が痛む。

会社について、片付けをして、日報を書いて、アパートに着いたときは既に日付が変わっていた。

数時間後、また明日が始まる。