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「これ持ってけ。」
男性はビニール袋を取り出し、自分に向かって放り投げた。放物線を描きながら胸の辺りにストライク。中を見るとそこには、チョコレートやあめ玉、他には駄菓子が袋一杯に入っていた。
「あ…ありがとうございます。」
困惑しながらも、一応お礼を言う。
「なあ兄ちゃん?その仕事初めて何年だ?」
「はい。まだ、2ヶ月です。」
「そうか。随分若く見えるが何歳だ?」
「22歳です。」
「偉いな。頑張れよ。」
そう言い残し、男性は作業着のまま玄関を出ていった。庭先に停めてある軽トラックに乗り込みエンジンを駆け、どこかに行ってしまった。
「昔、まだ若いときにお父さんもあなたと同じような仕事やってたのよ。」
傍らで一連のやりとりを聞いていた女性が口を開いた。
「多分そのときの自分を思い出したんじゃない?じゃなきゃ契約しないわよ。元々牛乳得意じゃないんだから。まあ、飲まなかったら私が飲むけどさ。いずれにしても支払いはお父さんの年金から出させるわ。じゃ、頑張って。」
そう言って家の中に入っていった。
改めてお礼が言いたかったが、だいぶ時間がたってしまった。まだまだ行かなければならないところが山ほどある。
手にしたビニール袋の中から1つ飴玉を取り出した。口にすると強い酸味が口の中に広がっていく。
きっとあの男性も昔、同じように誰かに契約してもらい、お菓子をもらったことがあるんだろう。
飴玉のせいか、契約のせいかはわからないけ、もう少しだけ頑張ってみよう。