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「お疲れさまです。」
携帯を手にしたが、まだふらつきは治まらない。
「どう?」
どうやらいつもの進捗状況の確認の連絡のようだ。「契約は獲れていません。具合が悪く、近くの公園で休んでいます。」
「そうか。それじゃまた連絡するから。」
たったそれだけ言うと電話は切れてしまった。
この人は心配する気持ちというのは持ち合わせていないのか。
そんなことを思っても仕方ない。
携帯から15時を告げるアラームが鳴った。
これは自分を奮い立たせるために設定したものだ。
15時以降は契約を取ることが難しくなる。
幼稚園バスの出迎え、買い物のため留守になりやすい。更には買い物帰りで忙しい、夕飯の用意で時間がない等々飛び込み営業マンを断る理由がこれでもかという位ポンポン出てくるからだ。
なので勝手ながら16時をデッドラインと呼んでいる。
デッドラインまで残り1時間、ふらつきも治まったようだ。
右手にカート、左手に地図とパンフレット。気持ちを切り替え少し覚束ない足取りではあるが、ゆっくりと歩みを進めた。