徒然日記

約7年間の出来ごとです。

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「おいっ。まだ赤信号だぞっ。」
近所のお爺さんが手にした黄色い旗を自分に向けて怒鳴り散らした。

歩道には高校生の男子がエナメル製の野球バックを背負いながら歩いている。
そのうち何人かは驚きながら振り返るがそんな視線は全く気にせず駆け足で走った。

アパートから契約駐車場まで徒歩5分の距離を走ったおかげで2分で到着し、覚束ない手つきでエンジンキーを差し込み、回す。

今時キーレスではない車なんて絶滅危惧種だろうと思ったが慣れとは怖いものだ。
ドアを開けてエンジンをかけ、パーキングからドライブにレバーを下ろす。

先日、先輩から車を譲り受け、早速今日から車通勤という訳ではあるが、気が重い。

「明日から7時に家に来て。」
この言葉は自分に運転手になれということを意味するのに時間はかからなかった。
断る訳にはいかず承諾したのだが、携帯の画面は既に6時45分を過ぎている。

遅刻はないと思うけど、それほど余裕もあまりない。先輩の家まで約10分の道のりを事故なく到着。(今となって思い返すと、自分を先輩の家の近所に勧めたのはもしかしたらこのためかもしれない)

「おはようございます。着きました。」
インターホン越しに声をかけ、暫くの間待機していると、玄関の扉が開き先輩が出てきた。

「車、もっと路肩に寄せられないの?そんなんじゃ警察よばれるよ?」
朝の挨拶も出迎えの感謝の言葉もなく、そう言って後部座席に荷物を卸ろし、助手席に乗り込んだ。
「すいません。気をつけます。」

しかし、そのダメ出しはまだほんの序章に過ぎなかった。