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「ばあばっ‼ねえ、ばあばってば‼空き瓶‼なんか変な人来た‼ヨーグルト食べた‼ 」
インターホン越しに聞こえてきた幼い声。
全体的に意味不明なのは良しとして、カメラに映った俺の姿はそんなに変なのかとチクっと心が傷付つく。
しばらくして、先日サンプルを手渡した40代位の女性が玄関から出てきた。
「これさあ、本当に効果あるの?」
女性は先日手渡したパンフレットの説明文を指差しながら聞いてくる。
そこには「テレビや雑誌等話題沸騰。内臓脂肪減少にお役立ち!」と銘打たれたヨーグルトが紹介されていた。
正直に言ってしまうと個人差がある。お医者さんが言うには毎日一個2~3ヶ月食べ続けてようやく目に見えて効果が現れてくるという。
もちろん、1ヶ月で現れる人もいれば、半年~1年経っても願った効果が出ない人もいる。また、その間に食事制限をしたり運動をすることによって変わってくる。
つまり、ヨーグルト「だけ」にこだわってしまうと嘘だの誇大広告だのクレームに繋がってしまうのだ。
その辺を踏まえて説明をしないといけない。だがそのまま伝えてしまうと契約に至らないケースもあるので、営業マンによっては濁して説明する人もいる。それは、平たく言えばお客さんに嘘をつくことになる。
俺はそんなことはしたくなかった。
「ちょっと。聞いてる?」
しばらく黙っている自分にイライラしたのか、怒り口調だった。
すいませんと謝り、目の前にいる女性には、ありのままを伝えた。
「やっぱりそうだよね。」
しばらく逡順して更に続けて、
「あんた、正直そうだから信用してみるよ。このヨーグルト、まず3ヶ月くらいかな。配達してちょうだい。」
正直に話してよかった。安堵しながら、ファイルから契約書とボールペンを手渡した。
「だいぶ前に来た営業の人、60歳くらいの男性だったかな?あんたとは全然違って都合の良いことばっかりで胡散臭い感じだったから断ったのよね。それより、はいこれ。書いたからよろしくね。ごめん。夕飯の支度の途中だから。」
そう言って契約書を返され、足早にキッチンに戻ってしまった。
そうだよな。家族皆さんの料理を作るのは簡単じゃないよな。
そんな忙しい中自分なんかの話を聞いてくれて、更には契約までしてくるなんて感謝しかない。
リビングにあったテレビからは人気の情報番組のオープニングテーマが聞こえてきた。あの番組は確か18時開始だったはず。
これ以上居座っては本当に迷惑になってしまう。
「あのっ…ありがとうございました‼」
キッチンまで届くよう普段は出さない腹から声を出、玄関を出た。